「空手」と美しい「形」と「流派」
「空手」といえば、真っ先に浮かぶのが女性選手の美しい「形」ではないでしょうか。
メリハリのある身体動作は美しく、息遣い、迫力には目を奪われるものがありますね。
「空手」にはたくさんの「流派」があります。
「形」も流派ごとに多数存在し、オリンピックに採用されている「形」だけでも70種類以上あります。
「形」は、「組手」に比べて「競技化」は遅れましたが、それは美しさを追求するあまり、武道性が失われてしまうことが危惧されていたという理由がありました。
実際に、「高得点をとるために、本来の「武道」とは違う動作が入っていることが武道としておかしいのでは?」と指摘されてもいます。
しかし、「形」には、深い武術としての奥行きがあり、高度な「実践性」が含まれているのです。
より楽しく「形」の習得に取り組み、鑑賞できるよう、ここでは、「形」のもつ美しさを競う「競技」としての側面と、「武道」としての側面をご説明し、参考となる動画をご紹介します。
目次
「形」は「競技」と「武道」の両方からとらえよう!
「形」は空手の基本動作を組み合わせた一連の定められた動作であり、基本動作には、「突き」や「蹴り」、「移動」などの動作がすべて含まれています。
加えて、「組手」を行うにあたり危険すぎるとして禁止されている本来の空手の技、つかみ技や、目つき、股間蹴りも動作も含まれており、「組手」では不要な対武器術としての動作も含まれているのです。
その点では、「組手」よりも、より「武道としての空手」が深く表れています。
それと同時に、「競技」としての「形」は、できる限り本来の武道の性質を損なわず、かつ、審美性を高めたものになっています。
「形」は「競技」としての側面と、「武道」としての側面の両方を持つと考えるとよいでしょう。
「競技」としての「形」 独特の美しさ
今日伝わっている「形」の成立起源ははっきりしません。
「形」は古いものでは数百年以上歴史を持つと考えられており、映像も音声も記録できない時代に成立し、時代に応じて創意工夫が加わっていますので、何が「正統」なのかは大変難しい問題です。
動作が定まっていないと「競技」として評価できないため、今日では「武道」としての空手のあり方が失われないよう少しずつの改変を加えながら全空連や世界空手道連盟によって、一定の所作が定められています。
「形」競技では、個人戦と団体戦があり、大会によって、「指定形」を採用していたる場合と「自由形」を選択できる場合があります。
全空連の試合では、「指定形」が定められていますが、オリンピックでは約70の形から、選手が任意に選択することができます。
ただし、選手は「同じ形の演武」を複数回できないという点が特徴的です。
「形」の評価基準は、全空連のものが詳細です。
「美しさ」の表現の中に、武道を取り入れようとする苦心が伺われます。
動作が理にかなっており正確であること、突き・蹴りの力強さとスピードが主要な評価対象となりますが、「所作ならびに呼吸」や「心身ともに共通する姿勢」など、精神性を感じさせる項目を巧みに含めています。
全空連の評価基準は下記9項目です。
- 本来の意味での形の演武がなされていること
- 形の理解度
- いいタイミング、リズム、スピード、バランス、きめ
- きめに必要な正確で適切な呼吸
- 着眼および集中力
- 正確な立ち方
- 腹部に適度な緊張があること。また、腰が上下に動かないこと
- 演舞する流派の基本をおさえていること
- 団体形の場合、外部的な合図なしで全員が同時に動けているかどうか
「呼吸」や「姿勢」にも着目すると、形の観賞は、より面白さが増すでしょう。
直近では、2016年10月にオーストリア、リンツで行われた世界選手権では、男女ともに個人形、団体形、ともに優勝しています。
オリンピックが楽しみなところです。
「武道」としての「形」 非常に高度な実践性
形の奥深さ
「形」には多くの不明点があり、また、そもそも空手にいくつの「形」があるのかも公式見解はありません。
オリンピックでは70あまりの「形」が認められていますが、もとより全ての形を網羅しているわけではありません。
「形」の稽古としての効用を否定する空手の流派はほぼ見当たりませんが、一体どのように役に立つのかということについては、多くの見解があり、解釈も多様です。
とはいえ、どのような見解に立っても、空手の「形」は先人が多くの知恵を凝縮した、攻防に必要なあらゆる技術を伝承する集大成という点は異論がないようです。
実戦では、相手は武器を持っているかもしれません。
また、複数の相手がいることも考えられます。
さらには、後ろから突然襲われるかもしれません。
「形」は、「組手」では禁止されている「投げ」や「つかみ」の動作も含めて、実際の危険への対処を示した極めて実践性の高い稽古なのです。
フルコンタクト空手でも重視されている形稽古
実は、フルコンタクト空手の諸流派でも「形」は重視されています。
一例として、極真会館は創立当初から、昇級・昇段試験に「形」は必要項目として取り入れられており、現在も変わっていません。
極真会館創立者の大山倍達氏は空手の「実践性」を徹底的に追求した人物ですが、「形」について、「形の動作の中には、組手における立ち方に始まり、歩き方、攻撃技、受け技が含まれており、いわば形は空手の教科書ともいえる」と述べています。
「形」は、武器術を念頭においている動作もあり、「組手」では危険とされている、股間蹴りや、倒れた相手への打撃、投げ技、さらにはつかみへの対処なども含まれています。
大山倍達氏はこうした観点から、形の稽古を重視していたと思われます。
世界選手権の動画を見てみよう 「分解」という説明付き!
ここでは、スペインに本拠をおく、オリンピック主催団体である世界空手道連盟の定める「団体形」をご紹介します。
世界空手道連盟の主催する大会では、「形」競技は、「形」に続いて、「分解」とよばれる一種の約束組手(あらかじめ定められた攻防を演舞する組手のこと)を行うことになっています。
「分解」は、日本では一部の大会でしか採用されていませんが、「形」の「実践性」をわかりやすく紹介している一例と言えます。
「形」の解釈は一通りではないので、「正解」を示しているわけではありませんが、「魅せる競技」としてのひとつの工夫と言えるでしょう。
下に、2012年の世界選手権決勝の、日本代表女子の団体形(クルルンファ)をご説明します。
動画の前半半分は「クルルンファ」の「形」、後半部分は、「クルルンファ」の「分解」になります。
全く同じ動作をしているわけではありませんが、動画を注意深くご覧になっていただければ、前半部分の「クルルンファ」の「形」が、後半で利用されていることに気が付かれるでしょう。
一例をあげると、クルルンファの形の最後の箇所、動画2分20秒から30秒までの動作は一見何をしているのかわからないと思います。
しかし、例えば、動画5分20秒、ならびに、動画6分5秒の箇所はこの動作はこの動作に極めて類似していませんか?
両手を上に挙げた後、勢いよく下におろす。
さらにその後、両手を上にあげ、回転させる。
後ろから抱きすくめられた状態から脱出する一連の動き。
両手を勢いよくおろす反動から、相手を振りほどき、反撃に移る。
相手との攻防の中で、上段を両手で受けたのちの攻防。
この後、投げ技へと続く。
なお、2012年の世界選手権は、男子「団体形」も日本が決勝まで進みました。
下にご紹介するのが男子の形(ウンスー)です。
もっと詳しく知りたい方に…
「形」については、Youtubeに世界空手道連盟の公式チャンネルに多くの動画があります。
もちろん、キーワード検索をすれば、日本の国内の試合も数多くあります。
全空連はオフィシャルサイトがないので、「空手」「形」「分解」などのキーワードで検索するか、世界空手道連盟のサイトを見てください。
参考書籍類(主要なもの)
和田光二、「空手道―その歴史と技法」、月刊 武道、日本武道館発行、2017年8月号、p94-100
公益財団法人全日本空手道連盟監修、「初めての空手道」、誠文堂新光社、2016年1月
ウェブサイト
オリンピックの公式ルール(日本語。分解は義務付けられていません)
https://www.2020games.metro.tokyo.jp/taikaijyunbi/taikai/syumoku/games-olympics/karate/index.html
2017年世界選手権の結果(英語のみですが、各大会の組手、形、各部門の成績が載っています)
https://www.wkf.net/world-championships-past-championship/senior/
世界空手道連盟のルール(英語のみですが、形競技に「分解」(bunkai)が義務付けられているのがわかります)
https://www.wkf.net/pdf/wkf-competition-rules-version9-2015-en.pdf
世界空手道連盟の公式チャンネル
https://www.youtube.com/user/WKFKarateWorldChamps