道場の師範である父の影響で、幼いころから玄制流の空手をはじめ、今では空手道歴15年となりました。今まで数えきれないほどの型を習得してきた筆者がお伝えします。
空手を語るうえで欠かせない「演武」。
空手好きな人や空手初心者だと「演武ってどんな意味があるんだろう?」と疑問に思うことがあるはず。
相手と戦う組手とは異なり、審査員を前にしてたった一人で披露するのが型の特徴です。洗練された一つ一つの技のキレ、技の決まり際に声を放つ気合いなど、相手と激しくぶつかり合う組手とはまったく異なった魅力が凝縮されています。
一人だからこそ表現できる、”演武ならではの魅力”に取り憑かれる空手ファンも数多く。そこで今回は、演武の意味から試合形式、さらには動画を交えながら大迫力の演武をお届けします!
そもそも演武って?
演武とは”型”のこと
「武を演じる」と書いて演武。文字どおり観客や審査員の前で”型”を披露し、空手における「突き」や「蹴り」、「受け」といった基本動作を組み合わせて作られたものです。
ひとつの型は3〜4分ほどで、それぞれの動作に緩急をつけたり、決まったタイミングで「ヘイ!」「ヤー!」と気合いを入れたりと、短い時間の中で動きがめまぐるしく変化するのが大きな特徴です。
型のバリエーションは星の数ほど。流派によって異なる
ひとくちに型といっても、その種類は星の数ほど。代表的なもので言えば「スーパーリンペイ」や「サンサイ」など…正直いきなり言われても意味不明ですよね。
このように型には固有の名前が付いていて、そのほとんどが初心者から言わせると正直ヘンテコな名前です。ただ、ひとつひとつの名前には深い意味を持っています。
また、「松濤館」や「和道流」、「玄制流」など空手道の流派によって型は異なり、それぞれの流派ごとに独特の型を持っています。
組手との違いは?
空手道には、「型」と「組手」の2種類があります。
空手道と聞くと組手をイメージする人が多いはず。
組手とは相手と1対1で戦うもので、形式としては柔道やボクシングなどと似通っています。2~3分の制限時間内で自由に戦い、突きや蹴りでポイントを取り、先に8ポイントを取った方が勝利します。
基本的には拳のサポーターや顔を守るメンホー、胴を守るプロテクターを付けて行います。
ただ全日本選手権や国際大会では、拳サポーターだけで行うフルコンタクト制の試合が主流です。
基本的に演武は一人で披露。ただ複数人で行うことも
演武は基本的には一人で行います。コートの真ん中に立ち、始まりの礼から終わりの礼までを審査員の前で淡々と披露します。
一方で、「団体型」といって3人1組で行う演武もあります。
団体型の場合は、ひとりひとりの緩急や気合いはもちろん、「3人の阿吽の呼吸」が勝利のカギになります。
ヌンチャクや棒を使った型も!?
試合では行われませんが、ヌンチャクや棒を使った型もあります。
流派によって使う武器は異なりますが、段位を取得している空手家ならヌンチャクや棒、サイ、トンファーいった武器を使える人も多いですね。ヌンチャクをブンブン振り回す光景はまるで映画のよう。
体ひとつで行う型とはまた違った面白さがあります!
相手と戦わないのに強くなれるの?
型は組手とは異なり戦う相手がいません。
なので「拳を交わさないのに強くなれるの?」と思うこともあります。
ただ裏を返せば、自分との戦いでもあるわけです。敵がいない一方で、「審査員や観客を魅了するために、いかに緩急をつけ、技のキレを磨き、気合いを入れるか」を考えます。
美しい型を作り上げるために必死になって稽古することで、精神鍛錬にもなるのです。
組手とは違い、動作の細部までとことんこだわります。
どうやって稽古するの?
試合で美しい演武を披露するためには、当然ながらしっかりと稽古しなければなりません。
すでに相手のいる組手とは練習方法はまったく異なり、型の稽古はひたすら自分と向き合うことになります。
まずは全体の動きを覚えるところから
初めて目にした型を身につけるためには、まずは動きを覚えるところからスタート。
これが最初にして最大の壁でもあります。道場の先生や動画を見ながら、ひたすらインプットとアウトプットを繰り返し、型を体に染み込ませていきます。
不思議なことに、100回ほど繰り返すともう無意識に動けるようになります。
ひたすら反復練習して技を磨く
自分が納得できるまでひたすら反復練習、これに限りますね。
先述したように型はとても繊細なので、ざっくりとした動きだけでは人を魅了することはできません。
緩急やキレだったり、間合いだったり、気合いのインパクトだったり。細かい動きまで意識しながら稽古します。
師範や先生に見てもらいつつ、自分の型を淡々と磨いていきます。
相手がいるかのようなイメージで動く
型は一人で行いますが、突きや蹴りなどの動作の先には必ず「見えない相手」がいます。
そこで稽古中も、さも相手がいるイメージをすると一つ一つの動作の意味も理解できるようになるわけです。
とても難しいですが、相手をイメージするかしないかで勢いや迫力に大きな差が生まれます。
試合ではどのように勝敗が決まるの?
大会での演武ではもちろん勝敗がつきます。
基本的に選手が1対1で競って、準決勝、決勝と勝ち上がっていくトーナメント方式です。
審査員によって自分の型を判定されるのですが、具体的にどのように審査されるのか見ていきましょう!
自分の”得意な型”を選んで披露する
試合での演武では、「自分の得意な型」を選んで披露します。
流派によって型は異なるので、試合会場では様々な型が見られます。
あまりの種類の多さに、私のような空手家でも「なんだこの型!?初めて見た」と思うことがありますね。
見ているだけでも面白いです。
審査員は5人。点数もしくはフラッグでの判定
コートを囲むように5人の審査員が型を判定します。
試合によって異なりますが、「点数」もしくは「フラッグ」で勝敗を決めます。
組手だと「突きが決まれば1ポイント」「蹴りが決まれば一本」と判定が分かりやすいですが、演武の場合は審査員がフラッグを上げるまで勝敗が分かりません。
これも演武の醍醐味のひとつですね。
他の格闘技にはない迫力!全日本選手権・国際大会での美しい演武3選
数あるバリエーションの中でも、特にポピュラーな型たちをご紹介します!
以下の3つは、全日本選手権や国際大会では定番中の定番。
名前は少し難解ですが、実際に見てみるとあまりの迫力にハラハラドキドキします。
まさに「THE 空手」な雰囲気を味わえるはずです。
【スーパーリンペイ】
動作の数がとにかく多く、合計108個の動きからなるスーパーリンペイ。多くの選手に使われている型で空手界における知名度もNo.1。空手ファンを魅了し続けています。
【チャタンヤラクーシャンクー】
スーパーリンペイに並んで超有名なのがこのチャタンヤラクーシャンクー。沖縄で生まれた伝統的な型で、多くの選手が準決勝や決勝で披露しています。
【サンサイ】
玄制流を代表する型で、ジャンプしたり地面に伏せたりとダイナミックな動きが特徴のサンサイ。上の2つと比べると知名度は落ちますが、最近は海外からも注目されている型です。
戦うだけが空手じゃない!演武によって精神を鍛え上げるべし
先述したように、空手と聞くとどうしても「相手と戦うイメージ」が強いですよね。
ただ、拳を交えて相手を倒すことだけが本当の強さなのでしょうか?
もちろん組手も大きな魅力のひとつですが、それ以上に型の大切さも忘れてはいけません。
より美しい演武を披露するために自分と向き合い、とことん技を磨くことで、精神が研ぎ澄まされていきます。
本気で型の稽古に取り組んで試合での演武の経験を積めば、一皮も二皮も剥けた自分になれることは間違いありません。
ぜひ今回の記事でモチベーションを上げつつ、型によって精神を鍛え上げていきましょう!