近年、格闘技や武道は人気のスポーツの一つです。空手道も2020年の東京オリンピックの正式種目に加わったことで大きな注目を集めており、テレビ番組やCMで空手をしている選手を起用しているのをよくみかけるようになりました。
私の父も、空手の道場を持っており有段者で指導をしており、私も有段者で指導員をしております。オリンピックの種目に決まったことで見学や体験に来られる小中学生や親御さん、社会人が増えています。
しかし、皆さん空手に対して、「空手は戦って痛いもの」「ケンカが強くなるもの」「流派の違いは戦わない型をするか相手と戦う組手の違いでしょ…?」などのイメージをお持ちですがどれも違うのです…。
今回は、これから空手を習いたい、習わせたいと思っているけど流派がたくさんあってどこの道場に入門すればわからないといったご家族や、すでにどこかの流派に所属しているけどうちの流派はオリンピックの選考の中に入っているのか分からない…といった方に、それぞれの流派の違いや歴史、オリンピックの選考基準は流派に影響するのかを詳しく解説していきます!
ぜひ、今回の記事を読んで近くの道場を見学に行く際の参考にしてみてくださいね!
目次
空手とは
まず空手について皆さんはどのようなイメージをお持ちになりますか?剣道や柔道と同じように武道の一つですが、相手と戦うもの!というイメージをお持ちの方が大多数です。
空手は、武器を待たず拳や足技を使い全身を使って相手の攻撃から身を守りながら攻撃または反撃することを目的とした武道であり格闘技です。沖縄で発祥しその後それぞれの特徴ごとに派生したことで現在では様々な流派に分かれています。
知っておいて!!空手は心を鍛える場所!
ここで皆さんに知っておいてほしいのは、空手道は、相手が何もしていないのに自分から手を出したりしてはいけないことです。空手だけではなく、柔道や剣道、弓道などの武道でもそうですが、武道とは言葉の通り「武士の道」であり、お侍さんが、自分自身の心や技を鍛錬するための日々の稽古として始まったものです。
道場に見学に来られる親御さんの中にも「子どもがいじめられっ子なのでケンカを強くさせたい」とおっしゃられる方がいますが、「ケンカが強くなって相手を負かすのではなくてまずは、いじめられっ子に負けない強い心になるように練習をしていこうね」と話をします。
いくらパンチやキックが強くなっても思いやりや感謝の心を鍛えなければ、今度は相手を傷つけてしまいます。これから空手を習わせたいと考えている方は、どうかケンカの強さではなく子供の心を強くさせるために空手を習わせたいと思っていただきたいというのが私の切な願いです…。一緒に体だけではなく心も鍛えていきましょうね!
空手の歴史
さて、先ほど空手にも流派があるとお話ししましたがなぜ空手にはたくさんの流派があるのでしょうか?これから各流派の特徴をご説明する前に簡単にですが、空手の歴史について触れておきたいと思います。
空手の歴史は古く1700年代~1800年代の琉球王国時代、現在の沖縄県で始まったと言われています。その中でも首里手、那覇手に分けられ、貿易関係にあった中国から伝わった拳法と合わさり「唐手術」という護身術であった手を、琉球王国の士族であった首里手の糸洲安恒(いとすあんこう)師や那覇手の東恩納寛量(ひがおんなかんりょう)師などによって1900年代に本土で小学校の体育授業として取り入れられたことで「空手」として普及していきました。
また、現在の型演武で最も普及している平安(ピンアン)も糸洲師によって危険のないように改変を加えられ現在のような形になりました。糸洲師から教えを受けた弟子たちによりそれぞれ流派が派生し現在では、四大流派と言われる松濤館流・和道流・糸東流・剛柔流やフルコンタクト、その他派生した多数の流派によって現在では日本だけではなく世界各国に広がっています。
沖縄県から始まった空手は今では名前もよく知られ、マンガやテレビ、CMだけではなく国際試合やオリンピック種目となったことで競技人口がまだまだ増えると言われています。
空手の流派
さて、少し空手の歴史や空手の心得をご紹介したところで空手の流派について説明していきます。空手の流派はとても多く先ほど紹介した四大流派や、フルコンタクト以外にも多くの流派が存在します。
流派の大きな違は、基本と言われる型に繋がる立ち振る舞い、演武である型、型や組手の試合のルールです。ご自宅の近くの公民館や小学校などの施設などで道場を開いている空手もこれからご紹介する流派に当てはまります。
しかし、ポスターだけではどこの流派なのか、そもそもの流派の違いについていまいち理解出来ず、初心者だからどれを選んでも一緒ではないの…?と思ってしまうと思います。少しずつですがそれぞれの流派の特徴は違っていて各流派それぞれ先代宗家の教えを引き継いで切磋琢磨し技の改良や進化を続けています。
ただ、四大流派の組手に関しては全空連でのルール統一のため構えや間合いの摂り方に若干の差があるものの特別な差は見受けられないため、ここでは割愛させていただきます。では、今回は数ある流派の中から四大流派・フルコンタクトの特徴をご紹介します。
四大流派
まずは、現在の空手道の普及のきっかけとなった四大流派である松濤館流・和道流・糸東流・剛柔流についてご紹介します。それぞれの流派もこれからさらに派生して様々な流派に分かれていますが、数がとても膨大であるため親元の流派の特徴をご紹介いたします。
松濤館流
開祖は船越義珍(ふなこしぎちん)師で、没後のちに受け継いだ弟子たちによって雅号である「松濤」をもとに松濤館流と名乗られるようになりました。松濤館は遠い間合いからの攻撃を特徴とし動作がダイナミックでもあります。テコンドーの元になったともいわれ空手の流派の中でも所属している人数が多い流派になります。
和道流
開祖は大塚博紀(おおつかひろのり)師で松濤館流の船越師が師匠にあたります。船越師の教えをもとに柔道や剣術などの要素を加え和道流が誕生しました。
唯一、本土での発祥した流派であり昭和に誕生した比較的新しい流派です。柔術や剣術の要素が加わっていることで柔道に似た投げ技や足技などの技も多いことが特徴です。
糸東流
開祖は摩文仁賢和(まぶにけんわ)師で那覇手と首里手の糸洲師と東恩納師の頭文字を取り「糸東流」と名乗ったことが始まりです。それぞれの教えや古武術などを改良し現在の形になったと言われています。
現在では世界各国に広がっている流派でもあり、糸東流をもとに複数の会派も創設されている流派です。技は細かく派手ではありませんが実践に一番強く意識していることが特徴です。
剛柔流
開祖は宮城長順(みやぎちょうじゅん)師で1930年ごろ当時、唐手であった系統を「剛柔流」と名乗ったことが始まりです。那覇手の東恩納師から学んだ教えをもとに作られたと言われています。
剛柔流は近距離での受けや払いを特徴とし攻撃よりも自身を守ることに重点を置いていることが特徴になり、「ムチミ」は剛柔流独自の接近戦での戦い方となっています。
フルコンタクト
フルコンタクトは、組手の際に寸止めの手法を取らず直接打撃をする形式を採用している団体です。フルコンタクトは四大流派とは違い流派ではなく団体名で、有名な団体に極真会館がありその他のフルコンタクトを採用している団体もこの極真会館から派生した団体です。
世界各国に会派があり流派の垣根を超えて強さを追及する人の集まりでできています。現在では極真会館の開祖である大山師の教えを受けた弟子たちによってさまざまな団体が派生しています。フルコンタクト系は直接相手のボディに突きや蹴りを当てるため総合格闘技としても参加することもありメディアやテレビなどで極真空手の名前を聞いたことがある方も多いのではないでしょうか?
フルコンタクトの中でも昭和に空手ブームの火付け役となり、極真空手の礎を築かれたのが現在の極真会館の開祖である大山倍達(おおやまますたつ)師です。前身である大山道場でマンガ「空手バカ一代」のモデルにもなった人物で、当時、4大流派の寸止めでの組手が主流でしたが直接打撃であるフルコンタクトを提唱し新たな団体のために邁進した人物です。
のちにできる系統の団体は、いずれも大山師の弟子たちが新たに立ち上げた団体で、後にも先にも極真会館はフルコンタクトの中では最も道場生が多く現在でも空手道の新たな時代を切り開いています。
以下に、フルコンタクトの道を開いた極真会館を含めた会派の特徴をご紹介します。こちらも会派が多くあるため4大流派同様に有名な団体をご紹介させていただきます。
極真会館
開祖は先ほど紹介した大山倍達師です現在は松井章圭(まついしょうけい)さんが館長を務められています。極真会館は国際空手道連盟も運営しており社会貢献を目的としているフルコンタクトの中では大きな団体です。
組手の試合方式は直接打撃ですが基本や型も大事にしており、全国各地、海外支部があることで地方大会や全国大会が行われるなど大きな団体です。
四大流派同様に昇級・昇段審査があり帯の色も変化していくため、組手での直接打撃や型の方式はやや違いますが基本からしっかりと学べる体制が整っています。メディアへの出演も多く極真カラテ=極真会館のイメージも強いかと思います。
極真館
極真会館の道場生で松井派であった盧山初雄(ろうやまはつお)さんによって創設された団体です。極真会館のから分裂した団体の中で唯一、突きや手技による顔面攻撃を認めた組手の試合を行っています。
空手の技だけでなく護身術や太極拳や中国武術的要素を取り入れた型も取り入れているのが特徴の一つです。フルコンタクトの中では顔面攻撃ゆえの間合いを取らない接近戦での試合形式となっています。
新極真会
極真会館の道場生であった緑健二(みどりけんじ)さんによって創設されたNPO法人の団体です。現在の極真会館の館長である松井章圭さんとの確執によって新たな団体ができたという経緯があります。会歌があり長渕剛さんが作詞作曲したことでも話題になりました。
試合のルールは極真会館の試合方式を採用しており極真会館とおおきな差異はありません。メディアの露出も多く試合中継やレギュラー番組を持ちフルコンタクト空手の普及にも力を入れている団体です。
芦原空手
極真会館の道場生であった芦原英幸(あしはらひでゆき)さんによって創設された団体です。マンガの「空手バカ一代」のモデルとしても登場しており、愛媛県で極真会館の支部長を務めたのちに大山師との確執によって除名を受けたのち創設されました。
芦原空手は少林寺拳法や合気道などの武術を織り交ぜた「サバキ」と呼ばれる、攻撃される前に相手に有利なポジションを取って攻撃することで相手に攻撃をさせない独特な立ち回りがあります。
フルコンタクト空手のイメージからすると直接打撃の打合いのイメージがありますが、芦原空手は護身術に近い印象を受けます。芦原会館主催の試合は行っていないためフルコンタクト全般での際に出場する形になります。
正道会館
極真会館の道場生であった石井和義(いしいかずよし)さんによって創設された団体です。極真会館の芦原道場時代に大阪で支部長を務めますが、現在の芦原空手の創設者の芦原英幸氏との確執によって自らも団体を離れ新たに作られた団体です。
大きな特徴は組手の中に掴みの動作がありK-1参加や格闘技オリンピックなどへも参加し、空手の垣根を超えてより実践的なプレーが多いのが特徴です。
テレビやCMによく出演され、K-1などでのレフリーなども務められる格闘家である角田信朗さんも正道会館の出身です。
大道塾
大道塾は極真会館出身の東考(あずまたかし)さんによって創設された団体です。
空手の禁止項目であった手による顔面打撃や投げ技・絞め技を認めた格闘空手で空道と名乗っています。柔道の要素も取り入れており空手の要素は比較的薄く、フルコンタクトを超えた独自のルールを採用しています。
稽古自体は空手の要素を取り入れ基本や移動、組手といった一連の流れであることが多いですが構えや組手での動作はボクシングや他の格闘技に近いものがあり組手の試合時には頭に防具を着用します。
誠道塾
誠道塾はアメリカのマンハッタンに本部がある団体で、極真会館出身の中村忠(なかむらただし)さんによって創設された団体です。
もともとは極真会館の支部をニューヨークに作りましたが極真会館の意見の相違により独立し誠道塾を創設されました。
現在の昇級審査の際の色帯式は中村氏の発案だと言われ現在は他流派もこの方式を取り入れています。大山師の後継者になると言われていたこともあり極真会館の要素を取り入れた防具を使用した試合形式を採用しています。
空手を習いたいけどどの流派を選べばいいのかわからない時
流派の特徴や歴史について何となくわかったけど、初心者だからどの流派を選べばよいのか分からないという場合にはどのように選択すればよいのでしょうか?私の道場生の中にも実際に他の流派から再度入門してきた子どもや部活動では他の流派のため兼任している生徒もいます。道場選びで大切なことをまとめましたので紹介します!
流派の選び方
流派を選ぶ際、ご家族の中に空手の経験者がいらっしゃるのであれば入門に関わらず話を聞くのが一番ですが、ご家族に空手の経験者がいらっしゃらない場合はまずは、四大流派のように寸止め形式での組手なのか、フルコンタクトのように直接打撃のある組手のどちらを選択するかによって今後の試合形式が変わってきます。
また、組手のように戦わず、演武である型を選択するのであれば四大流派とフルコンタクトどちらでも好きな方を選択するといいでしょう。
組手を極めていきたい場合
空手のイメージと言えばやはり1対1の組手と呼ばれる戦いのイメージが強いかと思います。四大流派は日本空手道連盟(通称:全空連)によってルールが統一され直接打撃を禁止する「寸止め」での試合です。万が一体に触れる行為があっても引手をとるため打撃による大きなけがに繋がりにくく安全です。
一方フルコンタクトは直接打撃による試合形式になりますのでケガや骨折の可能性は四大流派に比べて危険度は高くなります。
しかし、強さを求める場合や今後他の格闘技と複合して総合格闘技として戦うのを希望するのであれば、フルコンタクトを選択し道場が行っている試合に出場することでフルコンタクト制を採用している団体で活躍することができます。
型を極めていきたい場合
演武の正確性や気迫、基本に忠実であるかなどの技を競う型を習得したい場合には四大流派のいずれかに入門するべきという意見を聞いたことがありますが、実際にはどうなのでしょうか?
たしかにフルコンタクトは組手のイメージが強いですが、極真会館や新極真会の試合でも型の試合を行っています。伝統空手である四大流派は、基本動作や相手からの攻撃をかわすための身のこなしや、気迫で相手を追い詰めるといった動作を型として行いとても迫力があります。
各流派によって若干の違いがあるものの、大きな試合に出場する際には全空連が指定する型の中から演武する型を選択するため、どの流派も共通しており各流派の特徴は出にくくなっています。また、筆者は四大流派に所属していますがフルコンタクトの極真会館の型を試合で拝見したことがあります。
開祖である大山師は松濤館流と剛柔流を習っていたこともあり、四大流派に見劣りせずとても迫力のある型で四大流派の型と大差ないかと思います。よって、選択するのであれば組手をする際に寸止めなのかフルコンタクトなのかどちらかを選ぶかにあると思います。
型や組手についてよくわからない場合
いろいろ書いてあるけど方も組手もやったことないからよくわからない…。そんな方もいらっしゃると思います。それでも空手には興味がある!!そんな場合は近くの道場に一度見学に行くことをオススメします。
私の道場でも見学や実際に空手の体験する機会を設けていますが、まずは実際にご自分の目で確認してみるのが一番かと思っています。また、道場をなさっている先生や指導員が道場の流派や、その道場での考え方、試合成績などを教えてくれるので一つの参考になります。
何もわからないからこそ、ご自身や子どもにあった道場をみつけることができると思いますので近くの道場に足を運んでみるといいかもしれません。また、現在では、HPをもつ道場や各流派のHPに加入団体名や支部名、連絡先などを記載していることが多いのでそこからアポイントを取るのもおすすめです。
流派によってオリンピックに出場できないことってあるの?
オリンピックの正式種目となったことで子供に習わせたいという親御さんが増えています。見学に来られる親御さんの質問で多いのも「ここの流派はオリンピックに出られる流派ですか?」という質問です。
せっかく習わせるのであればオリンピックを目指してほしいと思うのもまた親心で気になるところではないでしょうか?オリンピックと流派の今後について紹介します!
四大流派とオリンピック
オリンピックの種目に決定しましたが、オリンピックでのルールは世界空手道連盟の規則に乗っ取り型や組手の試合が行われることが決まっています。
四大流派は全空連で組織されており、もちろん世界空手道連盟に加入しているため四大流派のいずれかに入門していて選考基準になる各試合で好成績を収めればオリンピックに出場することは可能になります。
これから空手を始める場合であってもオリンピックの正式種目であるうちは稽古を続け、努力を続けることでオリンピックの出場も夢ではないかもしれません!
フルコンタクトとオリンピック
今回のオリンピック種目に選ばれた空手の種目のうちの組手は「寸止め」のルールを使用した試合形式になっています。これは四大流派が加盟する全空連および世界空手道連盟のルールに基づいて決定されました。
ですから今のところ、直接打撃の試合形式であるフルコンタクトは、オリンピック出場は難しいでしょう。フルコンタクトの立役者である大山師もご存命のころIOC(オリンピック委員会)にフルコンタクト制の採用を認めてほしいと活動を続けておられましたが安全を保障することができないとして採用には至りませんでした。
しかし近年、フルコンタクトも極真会館を除く複数の団体が全日本フルコンタクト連盟を結成し、フルコンタクトのオリンピック出場に向けての活動が活発になっていると聞きました。また、極真会館は4大流派の全空連に賛同し世界空手道連盟のルールでオリンピックに参加したい旨を伝えています。
大山師がお亡くなりになられたことで内部分裂を起こし、大山師の元で稽古を積んでいた道場生それぞれの確執や思想によって極真会館をもとにおおくの会派が誕生しました。それぞれが独立しフルコンタクト空手のジャンルを広めてきましたが、現在ではそれぞれの団体が和解や合同の試合を行うなどして友好な関係を築いているように思います。
現時点でのオリンピック参加は厳しいですがこれから先、ルールの改正や安全面が確保されれば、オリンピックの空手競技である組手種目の中にフルコンタクトの部門ができるかもしれません。フルコンタクトは、今後のオリンピック出場に向けた動きに関してまだまだ進展がありそうです!
まとめ
今回は、空手道と流派について歴史や特徴、オリンピック出場などを含めてご紹介しました。空手は沖縄から始まりこれまでにたくさんの宗家や館長によって守られ伝えられてきた武道です。
現在注目されている空手は今後ますます競技人口が増えていきますがまずは技や力よりも心の鍛錬が一番であることを知ってほしいと思っています。私も指導者としてこれから空手を始める皆さんのお役に立てるよう様々な情報を発信できればいいなと思っております。