決められた技を順番通り演武する一連の流れのことを型と呼びます。
心・技・体の充実を図り空手の基本を習得する目的がありますが、型にはどのような意味があるのでしょうか?
空手歴10年、大学から極真空手を始め、現在黒帯の筆者が空手の型を紹介します。
目次
空手における型の位置付け
特に空手の経験が浅い方にとっては、型が何を指しているのか分からない部分も多いでしょう。
まず、空手には大きく分けて型、組手と呼ばれる2種目があります。
型は決められた演武の一連の流れを相手がいない中で競技するもの。
組手は試合形式で相手と勝敗を競うものとなっていますので、この点は理解しておく必要があります。
今回のテーマの型は相手がいない中で黙々と1つ1つの技を繰り出していくため、一見地味に見えますが、演武の中で「押忍!」「エイ!」と気合を込める、組手には無い迫力がある魅力的な競技です。
また、型は空手の基本動作の習得に欠かせないものですので、どの道場でも必ず稽古時間に組み込まれています。
道場によって割合は異なりますが、稽古時間の3割~6割は型を習得するための時間に当てられることが多いのではないでしょうか。
小さなお子さんや初心者の方は、試合形式の組手の稽古を好む傾向がありますが、空手を上達するために、まずは型をマスターする必要があるということを知っておきましょう。
空手の基本動作は、型に凝縮されている?
型の中で決められた技を順番通り演武することによって、立ち振る舞い、手技、足技、基本的な動き、空手における基本動作をマスターすることに繋がります。
「1つ1つの技の理解度を深める」、「技を繰り出す間合いを図る」、「技のパワーやスピードの精度を上げる」ということにも繋がりますので、空手の上達には型は欠かせないものとなっています。
空手の上達には型はかかせない重要なものという意識を日頃の稽古から持っておくと良いでしょう。
例えば、野球は打つ・走る・守るという3つの基本動作がありますが、実際の試合で実力を発揮するためには、日頃の練習からキャッチボールや素振り、ベースランニングの基本練習を繰り返すことによって実践に生きてきます。
逆に、基本ができなければ応用もできませんので、まずは何事も基本をマスターするところから始めていきましょう。
空手の上達をするためには繰り返し何度も型の稽古をおこなうこと上達のキーポイントとなっています。
型を学ぶことで基本の立ち方を習得できる
空手では、体をほぐすための柔軟体操、空手の基礎を作るための移動稽古・型、実戦形式の組手という内容の稽古をおこなっている道場がほとんどです。
その中でも最も重要なのが移動稽古と型です。
空手を実践する中での立ち振る舞いを習得するための時間ですので、初心者だけでなく、空手の師範クラスでも最も集中して取り組んでいる時間となります。
その中でも空手の基本中の基本とも言える前屈立ちについては、空手の動作の全てにつながってくるものと言われていますので、早い段階で習得しておく必要があります。
足の位置を体重のバランスの取れる地点に持っていき、平行に立ちます。
そこから、一方の足を大きく前に踏み出し、前膝を90度曲げます。
後ろ膝はつま先の角度が外側に25度ぐらいがちょうどよく、体のバランスが取りやすいです。
体重の配分が前と後ろで6:4を意識し、お腹にしっかりと体の重心を意識すると安定した立ち方となります。
また、この時に目線から足の親指が視界に入らない位置まで踏み出していると丁度良い姿勢の目安となります。
体の使い方や意識の部分など、考えなければいけないことは多いのですが、日々の稽古で体に叩き込むことで、空手の基本となる前屈立ちを習得でき、習得することで突き・蹴り・技出すまでの間合いを生むための下半身の強さを手に入れることができます。
型の上達ための3つのポイント!
型を上達するために最も大切な事は、日々の稽古から繰り返し何度も練習をおこなうということです。
上達には体のキレを意識することが大切ですが、一概に体のキレを良くすると言っても難しいです。
同じ稽古の繰り返しではモチベーションを保つことが難しいですので、型の上達の近道となる、型上達のための3つのポイントを紹介します。
「技の1つ1つを大切にする」
連続して技を出す型の中では、次、またその次の技まで頭で考えて動くことが求められますが、次の動きを意識しすぎると動きにメリハリがなくなってしまいます。
特に空手の経験が浅い方に見られる傾向として、型全体にキレを出すために機敏に動こうという意図が見える場面が多いのですが、型の演武は技と技の連続ですので、1つの技を意識すると良いです。
「技と技の間を意識する」
型では技を出すことがメインですが、次に大切なことは技を出していない時間です。
次の動作までの合間の体の使い方。
主に方向転換や移動を指していますが、体の中心に芯を意識することでブレを作らないように意識しましょう。
わかりやすく言うと、技をスムーズに出せるように最短距離で動く意識を持つことです。
体の軸がしっかりしていなければできない動きですので、日々の稽古で前屈立ちなどをマスターし下半身の強化がキレを生む最大のポイントになってきます。
「技の強弱を付ける」
キレを出すために最も重要なことと言っても良いのが、技に強弱を付けるという点です。
型の基本となる技は、突き・蹴りです。
拳の先がイメージの中の相手に向いているかどうか、相手まで最短距離で技が出ているかということが動きにキレを出すために意識しなければいけません。
ただし、一定のスピードで技を繰り出すとメリハリのない演武に見えてしまうのです。
突き1つ例に出すと、動きだしは最短距離で素早く出す、技を出し終わった後はしっかり止めるというようにしましょう。
動くところは素早く、止めるところはしっかり止めるという意識を持つと、技に強弱が付きキレのある動きで演武することができます。
流派によって型の特徴が違う?
知り合いが通っているから、家が近いから、など空手を習う理由は人それぞれあると思いますが、空手の道場によってそれぞれ流派があることを覚えておきましょう。
全日本空手道連盟の大会では、空手の四代流派の型の演武がおこなわれます。
流派によって特徴がありますので、メインとなっている四代流派を紹介します。
・剛柔流型(ごうじゅうりゅう)
サンチン、サイファ、セイユンチン、セイサン、スーパーリンペイと呼ばれる型がメイン。
流派の特徴は、非常に型を大切にしていて、型のきれいさが多い選手が多いことでも知られています。
受けの構えが多いことも特徴的。
・和道流型(わどうりゅう)
クーシャンクー、セイシャン、チントウ、バッサイ、ワンシュウと呼ばれる型がメイン。
流派の特徴は、型のきれいさに重点を置いていますが、柔術も組み合わされて構成されています。
投げ、足技、受け身など動きが柔道に似ていることも特徴の1つです。
・松濤館流型(しょうとうかんりゅう)
抜塞大[ばっさいだい]、観空大[かんくうだい]、半月[はんげつ]、五十四歩大[ごじゅうしほだい]、五十四歩小[ごじゅうしほしょう]と呼ばれる型がメイン。
流派の特徴は、攻撃と防御のバランスとスピード間を重視した型が多いことが特徴です。
五十四歩大に関して言うと、2分半という非常に長い時間の演武となるので、足腰の強さや最後までキレの良い技を繰り出すためのスタミナが必要です。
・糸東流型(しとうりゅう)
抜塞小[ばっさいしょう]、五十四歩[ごじゅうしほ]、南光[アーナンクー]、公相君大[こうそうくんだい]、公相君小[こうそうくんしょう] と呼ばれる型がメイン。
流派の特徴は、四代流派の中で最も型が多いと言われています。
突き技、投げ技、逆技など多くの技数があるので、総合格闘技のようなイメージを持たれることが多いです。
以上が、四代流派の型と特徴などすべてを覚える必要はありませんが、自身の道場がどの流派に属しているのかという点は最低限覚えておくようにしましょう。
型を習得するとどんな良いことがある?
型を習得する意味を考えると、より空手が楽しくなります。
「空手を上達したいから」「空手の昇級・昇段につながるから」、「空手の組手で役に立つから」、「日常生活でやり遂げる癖をつけるから」など、型を稽古する目的は人それぞれあると思います。
最近は、日常生活で空手の型が役に立ったという声を聴くことが多いのでその例を3つ紹介していきます。
「礼儀を心得ることができる」
挨拶ができない社会人を見たことはありますが、道場内では挨拶ができない人を見たことはありません。
空手をやっている以上はまずは「礼儀」から始まるということを覚えておきましょう。
礼儀が身に付くことによって、自然に人を尊重できるようにできるようになります。
個人差はありますが、空手を始めてから人とのコミュニケーションが取りやすくなり友人が増えたという例も少なくありません。
「護身術として活用できる」
型で技を繰り出す際には、下半身がしっかりしていなければいけません。
そのため空手の稽古では下半身強化や柔軟な体を手に入れるためのストレッチ時間が多くなります。
体の使い方がうまくなりますので、日常生活でも自然とケガのしにくい体になり、相手に攻撃されたときの身のこなしが自然に身についてきますので、日常生活でも自分の身を守ることができるようになります。
「肉体的にも精神的にも鍛えられる」
普段の稽古から繰り返し型を実施することによって、ケガや病気に強い体を作ることが出来ます。
また、1つ1つの技を集中して出す型を繰り返すことによって、続ける力、あきらめない力が自然とついてきます。
集中力もアップしますので、空手以外の生活においても、型を習得することには大きなメリットがあります。
型に隠されている意味とは?
実際には型の通りに実践で技を繰り出すことは難しく、型の通りに相手の攻撃を受けることも難しいです。
そのため空手を習い始めた初心者や子供たちは、型のことを無意味、嫌いと思っていることが多い傾向があります。
では何故、型の稽古に多くの時間を費やすのでしょうか。
1つ間違いなく言えることは「型を怠ると空手の上達はない」ということです。
これまで紹介してきたように、空手の基本動作のすべてと言っても過言ではない型ですので、日々の稽古で繰り返し習得していく必要があります。
型のことを無意味、嫌いと思ってしまう理由は「基礎・基本練習」といった考え方で稽古をしてしまうからです。
空手に限らず日常生活でも同じことを繰り返すことは疲れますが、型には繰り返し稽古することによって肉体的、精神的、そして人間的にも強くなれる意味が込められていることを理解して、日々の稽古に励みましょう。
年齢や性別に関係なく、型は習得できる
空手を始めて1日目の初心者であっても、10年以上の空手歴のある師範であっても、演武する型の内容は同じです。
これは型のメリットでもありデメリットでもあります。
同じ型を演武したときに経験の差が目に見えて分かってしまう一方で、繰り返し型の稽古をすることによって、技の1つ1つが熟練され上達しているのが自身でも体感できます。
相手がある競技と違い、自身の頑張りがすべて演武に表現されますので、やればやるほど「やりがい」を感じられるという点があります。
日常生活においても共通しています。
何かをやりとげることが出来ない、やっても上達しないことを感じる場面があると思いますが、空手の型は稽古時間に比例して上達を実感できるある意味珍しい競技とも言えるでしょう。
年齢や性別に関係なく競技できることも型の最大の魅力の1つと言えるでしょう。
まとめ
空手の型について紹介してきましたが、いかがだったでしょうか?
基本の立ち方の最も代表的な前屈立ちについては、型を演武する際の技と技の間の動作をスムーズにおこなうためのものとなっています。
決められた技を順番通り演武する一連の流れのことを型ですが、礼儀を心得ることができる、護身術として活用できる、肉体的にも精神的にも鍛えられるというように空手以外の日常生活にも大きなメリットがあります。
上達のためには日々の稽古での繰り返しが必須ですが、上達を早めるためには「技の1つ1つを大切にする」、「技と技の間を意識する」「技の強弱を付ける」という3つのポイントがあります。
空手の上達には型の練習が近道ということを理解し、日々の稽古に励みましょう。