東京オリンピックから空手が正式種目となります。
オリンピック出場を目指すぞ!
テレビのCMで見る空手美人みたいに、カッコよく形(かた)をやりたい!
空手を習って純粋に強くなりたい!
など、いろんな角度から興味がわくと思います。
しかし、空手には多くの流派がありそうで、ルールもよく分からないし、結局のところ、「興味はあるけどよくわからない」と感じる人も多いはず。
せっかく日本伝統の武道がオリンピック種目になるのに「分からない」じゃもったいない!
空手歴23年、子供の頃から空手を愛してきた筆者が、「オリンピックの空手」を詳しく説明します。
オリンピックの空手の流派のことや、オリンピックの空手のルールを知れば、オリンピック予選から楽しみが倍増すること間違いありません!
空手を始めたいと思っている少年少女をはじめ、空手に興味を持つすべての人に役立つ内容になるよう、できるだけ分かりやすく解説しています。
そもそも「空手」とは?
空手って有名だけどよくわからん・・・
子供の頃、みなさんの周りに、空手の道場に通っている友達、1人、2人くらいはいませんでしたか?
空手と聞いて、「何それおいしいの?」なんて言う人はあまりお目にかかれませんよね。
そう、空手はとても有名な武道、スポーツです。子供の頃に習っていた人も多いのではないでしょうか?
私が指導している道場にも、子供がたくさんいます。
中学生くらいになってもやり続ける子供はやや少なくなりますが、空手の推薦で高校や大学に行ったり、実業団で活躍したりする選手もいて、一生空手をする人もいます。
また、テレビで空手を見かけることも、最近では増えたように思います。
K―1で有名な極真空手!オリンピックの種目のスポーツ空手!形(かた)をするカッコイイ空手!
ルールの違い、流派の違い、いろいろありますが、それらの違いを無視して、全部ひっくるめて空手、と呼ばれていますね。
では、空手を大きな区分に分けてみていきましょう!
試合のルールで大きく2つに分かれる
空手を分ける一番大きな分類は、技の違いよりも、「どうやって競うか?」つまり、試合のルールで区分けできます。
試合のルールで大きく分けると、試合では攻撃を相手に当てない「寸止めルール」の伝統空手と、試合で攻撃を相手に当ててKOする実戦空手に分かれます。
伝統空手
オリンピックの空手は「寸止めルール」の伝統空手というジャンルに区分されます。
この伝統空手は、
・組手(1対1で攻防戦を繰り広げる)と、
・形(一人で技を繰り広げてその技の精度、力強さ、美しさを競う)
があります。
なお、瓦は割りません。
筆者自身、空手を始めて23年間、割ったことありませんし、試し割りを見たこともありません。
組手
おおまかなルール
組手は、1対1で突きと蹴り等を使って攻防戦を繰り広げます。
KOするのではなく、技を決めてポイントで競う競技です。
「寸止めルール」で、「きれいに決まった攻撃」にポイントが与えられます。つまり当てたら反則。
おおまかに次のとおり。
・一本(3ポイント) :①上段(顔面)への蹴り
②相手の体勢を崩しての突き
・技あり(2ポイント):中段(ボディ)への突き
・有効(1ポイント) :上段または中段への突き
※下段蹴り(ローキック)は反則です。
「きれいに決まった攻撃」にポイントが入る
「きれいに決まった攻撃」にポイントが入る
こう聞くと、武道と言うにはあまりに大人しそうで、もの足りないようにも聞こえるかもしれません。
しかし、空手道における「きれい」とはつまり、「空手の基本に忠実な攻撃」。
突きでいうと、「全体重が拳に乗った」攻撃です。
「もしこのまま寸止めせずに当てていれば、一撃必殺もしくは大ダメージを与えていただろう」という攻撃に、ポイントが与えられるのです。
「寸止めルール」でも激しい!
「寸止めだから安全だね」とか、「痛くないんでしょ?」「やっぱり空手はガチで戦うフルコンタクトだよね」とか聞きますが、伝統空手の組手だって、攻撃が当たってしまえばダメージは大きく、とても激しいものです。
空手は武道である以上、生半可な競技ではありません。
攻撃が当たってしまうと、失神することも珍しくありません。
防具をつけていても、油断していると歯が折れることもあります。多くはないですが、アゴを骨折する人もいます。
ポイントになる攻撃=もし当たっていれば大ダメージになった攻撃、つまり、全体重が乗った攻撃。
これが当たってしまえば、もちろん大ダメージになるのです。
当たったら反則ですので、コントロールも不可欠です。
(不思議なことに、「寸止めルール」なのですが、ボディにはガンガン当てても反則を取られることはほとんどありません。暗黙のルールですね・・・・。でも、明らかにダウンさせようとして殴り切るよう突きは、もちろん反則を取られます。)
礼を重んじる!
礼に始まり、礼に終わる。
空手が競技化した現在も、これはルールとして決められています。
礼をしなければ指導を受け、場合によっては反則になります。
また、ガッツポーズも禁止です(見逃されることもありますが・・・)。
私の後輩が、上段回し蹴りで3ポイントで大逆転を遂げ、思わずガッツポーズ!!
即座にポイント取り消しになったことがありました・・・・
ガッツポーズも無しなんて辛気臭いなあ・・・喜びを表現するくらいいいだろうに・・・
と思う方もおられるかもしれません。
色々な考え方がありますが、空手道という武道においては、争いに勝つ事よりも、空手道を通じて人格形成が重要な目的。
相手も必死で稽古をして、闘いに臨んでおり、自分も必死の稽古の結果をぶつけた。
自分が勝ったとしても、時の運かもしれない。自分が優れていると勝ち誇るために稽古をしてきたわけでもない。
相手の研鑽を尊重し、素晴らしい勝負をしてくれた相手に感謝する。
そこにきて、自分を誇ると思われる可能性のあるガッツポーズ等の挙動をすることは、相手への尊敬の念、配慮が足りないとみなされる、ということです。
伝統空手の組手はスピードと、何より駆け引き!
伝統空手の組手の特徴は、「駆け引き」と「速さ」です。
この速い攻撃も、手だけでシャッ!と撃つパンチは、ポイントになりません。
全体重が乗った突きをボクシングのジャブクラスのスピードで撃つ。
同じように蹴りもめちゃくちゃ速いし、全体重が乗っているので重いです。
これは、筆者が好きな西村拳選手の組手↓
こんなに素早くて腰が入った攻撃が当たったら、そりゃ大ダメージです。
組手では、攻撃の速さ、踏み込みの速さ、それだけでは勝てません。
なによりも、駆け引き。
これも一流選手同士の組手です。
↓
すごい・・・・
この2人とは、絶対あたりたくないです・・・
※タイトルで「永木伸児vs松久功」となっていますが、松久選手ではなく、樋口大樹選手ですね
また、
このように、めちゃくちゃ速い空手の突きですので、相手の間合で撃たれたら、まずよけられません。
だから、相手の間合いにさせず、かつ、自分の間合いにもっていく。
そのために、せめぎ合って間合いをはかる!
フェイントで相手の体制を崩す。
ふと間合いを切ったと思いきや瞬時に詰めて意表をついて自分の間合いにする。
すると、感覚的に分かるんです。
今だ!!行ける!!という瞬間が!
この瞬間を逃さず攻撃をしかけると、気持ちよくスパーン!!と会心の一撃が決まります!
これはもう感覚です。距離が遠い近いだけでは到底はかり切れません。
例えば、同じ位置関係でも、相手が前の足に体重がかかっている場合と、後ろの足に体重がかかっている場合では、対峙する相手の印象は全然違います。
相手が後ろに体重がかかっている状態、気持ち的にでものけぞったような状態だと、非常に攻めやすく、相手は防ぎにくい。
逆に、相手が中心に体重をかけている状態だと、なかなか攻めにくい。
無理に攻めると「死んだ攻撃」になってしまい、カウンターを食らってしまいます。
自分が攻撃しやすく、相手が防ぎにくい・反撃しにくい状態を作るための駆け引き。
この駆け引きが空手をしていて一番面白く、また、難しいところです。
そして、観戦していても、ポイントになる攻撃は、キレイに決まった攻撃じゃないとポイントにならないので、決まった突き、蹴りを見ると、気持ちがいい!
せめぎ合って、仕掛けるか仕掛けないかの駆け引きの後、一瞬ですべてがぶつかり合い、決まる技。
おすすめの選手の組手
おすすめは、オリンピックの組手競技優勝候補の荒賀龍太郎選手の組手です!
ズバ抜けた組手センスと圧倒的な練習量を誇る空手エリート達の中でさえ、さらにズバ抜けたセンスと実力を持つ天才選手です!
この動画の荒賀選手にやられた選手達でさえ、スター軍団だの、モンスターだのと言われた猛者達。
それを涼しい顔(のように見える)でキレイに大技を決める!
ひとつひとつの動きが神業です・・・
オリンピックでも金メダルが期待されます!
そして、学生日本一、近大の西村拳選手!
スマートな容姿、しかし熱い組手、カッコイイ!!↓(さっきと同じ動画ですが、スルーした方のためにもう一度 笑)
形
形は、誤解を恐れずに簡単にいうと、伝統的な空手の技をテンプレート化した、一続きのダンスのようなものです。
1対多数を想定し、ありとあらゆる攻撃に対する防御、そこからのありとあらゆる反撃が組み込まれています。
形をすることを、「演武」と言いますが、相手がいることを想定して「演じ」、戦う(「武」)ことから、そのように言われます。
もちろん、踊りではないですから、実際に相手の攻撃を受けられる動き、相手を一撃で倒せるような攻撃(全体重を乗せた攻撃)でなければなりません。
そのような動きを、美しく、力強く極めて演武をする。これがいかにできているかを競うのが、空手の「形」競技です。
形の審査基準
これには、細かい審査基準が設けられています。
たとえば、
・カカトが地面にしっかりついているか、
・手やヒジの角度は定められた形通りの角度になっているか、
・視線は想定した相手に向けられているか、
・ワキが空いていないか、
・腰は落ちているか、
・体重移動はスムーズか、
・形が終わった後で元の場所に戻ってきているか、等々。
これらの基準を守りつつ、空手の理想の攻撃ができているか、美しさ、力強さ、気迫があるかを競います。
形はとにかくカッコいい!!
カッコイイんです!鳥肌が立つほど、カッコイイんです!
私は形の演武をするのも見るのも大好きです!
第21回世界空手道選手権大会女子の形の部で優勝した宇佐美里香氏(2013年引退)が、歌のプロモーションビデオで演武をしたり、CMに出たりで話題になったほどですからね!
これは有名な空手美女、宇佐美里香氏の形。チャタンヤラクーサンクーです。
各流派の形に見られる「公相君(こうそうくん)」シリーズの一つです。※クーサンクーとか、和道流ではクーシャンクーとか呼ばれたりします。
この形はめちゃくちゃ疲れます。長いし、動きも激しくて大きいから、練習がとてもしんどいです。
しかし、見せ場がたくさんある形なので、やはり決まるとカッコイイです!!
また、宇佐美里香氏は現役を引退されましたが、清水希容選手が世界選手権で2連覇!
このチャタンヤラクーサンクーもすごい。
そして負けじと美しいですね!
空手界の綾瀬はるか!形のキレがすごすぎる・・・・
日本人の体は、バシッ!!と体全体で技をキメてピタッと水を打ったように静止する動作に向いているように思います。
例えば突きなら、手だけを動かすのではなく、足、脚、腰、腕、拳へと力が伝わっていき、突き終わった瞬間、体全体がバン!!とキマる!と同時にピタッ!と静止・・・(カッコいい!)
個人の形もいいですが、団体の形もものすごくカッコイイです!!
3人の選手の体全体が一紙乱れず同じタイミングでバシッ!!と決まる!
音がすごいんです!
このような、空手の形の動きは、日本人に向いていて、美しく力強く演武できる人が多いと感じます。
一方、欧米人は、体全体を使って技をキメて、ピタッと静止するのが苦手な方もいらっしゃいます。
つまり、技の後でブレてしまうんですね。
日本人が作った動きなので、日本人に合ってるのは当然ですが・・・
それでも、欧米の方でも、その他の海外の方でも、研鑽を重ねて世界のトップレベルにまで上り詰める方も沢山いらっしゃいます。
どこの国の方でも、うまい人はめちゃくちゃうまいです。やはり、技の研鑽が最も大きなキーポイントですね!
実戦空手
実戦空手は、極真空手から始まりました。
寸止めルールの試合じゃ、どっちが強いかなんてわからないだろ!という意識から、完全に当てる「フルコンタクト」のルールが生まれました。
創始者は、もはや伝説となっている大山倍達(おおやまますたつ)師です!
極真空手の寸止めなしの空手は、フルコンタクト空手、実戦空手と呼ばれる空手です。
このルールは、オリンピックの空手とは違うルールです。
このルールの下では、伝統空手の試合とは異なった攻防戦が繰り広げられます。
まず、間合いの詰め合いの駆け引きというのが、伝統空手に比べると少ない。
間合いを素早く詰めて、バチバチと攻防戦を繰り広げ、とにかくダメージを与えて相手を倒す。そんなイメージです。
実際にダメージを与える実戦空手と、全体重を乗せた攻撃を寸止めで決める伝統空手。
やはり試合運びが異なります。
伝統空手に比べると、未経験の方から見ても極真ルールは分かりやすいのではないでしょうか。
なお、瓦割りなどの「試し割り」は、極真空手に見られるものです。これはこれで、スゴイし見てて惹きつけられますよね!
オリンピック種目の空手は実戦的じゃない?
ここからは私個人の意見ですが、伝統空手は実戦的ではないとか、弱いとか聞くことがあります。
どちらが強いか!?というのは、選手個人の実力にもよりますが・・・
KOありのルールだと、実戦空手の方が圧倒的有利と思われがちですが・・・一概にそうは言えない!
と思います。
伝統空手のトップクラスの選手なら、KOありのルールに慣れれば、実戦空手でもかなりいいところに行くと思われます。
伝統空手の選手に対して、実戦空手の選手が不用意に間合いを詰めようとしても、簡単には攻撃は当たりません。
伝統空手の選手の攻撃も、寸止めさえしなければ大ダメージの威力です。
そして、極限までノーモーション(攻撃の寸前に全く動かない)を追究した攻撃。
攻撃の威力としては引けをとりませんし、スピードも格闘技会トップクラスです。
一方、実戦空手の選手も、ルール上、打たれ強いですし、ダメージを与えてKOする技術の練習を重ねていますから、当然遅れをとることはないでしょう。
しかしこれも、選手個人の実力によると思いますので、どちらの空手が強いかの答えはありません。
もっとも、伝統空手だから実戦的ではないとか弱いということは決してないということは確実に言えます。
オリンピックの空手はどの流派?
オリンピックの空手は、全日本空手道連盟に加入している空手道の道場で学ぶことができます。
主に、空手の四大流派である以下の流派です(あくまで「主に」)。
・剛柔(ごうじゅう)流(剛柔会)
・糸東(しとう)流(糸東会)
・松濤館(しょうとうかん)流(日本空手協会)
・和道(わどう)流(和道会)
全日本空手道連盟加盟道場の一覧↓
http://www.jkf.ne.jp/kameidojo/osaka
どの道場に通えばいいの?
選び方は、それぞれの目的によって変わってきます。
空手の練習形態は、空手の道場ごとに全然違います。どの流派を選ぶかは、何をしたいかによります。
9割が組手稽古という道場もありますし、9割が形という道場もあります。これは、流派の違いではなく、道場の方針の違いです。
形をしたい!
流派を選びで確実に違いが出るのは、「どの形をするか」です。
ですので、動画で調べてみて、例えばですが、糸東流の形がやりたい!
そう思ったら糸東流の門をたたいてください。そうすれば、糸東流の形を教えてもらえることは確実です。
具体的にどの道場にするかは、実際に足を運んでみないとわかりませんが・・・
組手がいい!
形には興味がわかないので、とにかく組手を!
という方は、近くの道場に足を運んで練習風景を見て、組手の練習が行われているかを確認するのが一番でしょう。
見れば形と組手の大体の割合がわかります。
雰囲気が自分に合うか、求めているものがあるかも一目瞭然!
競技が全国レベルの形・組手がしたい!
また、形でも組手でも、青春をかけて全国を目指したい!
という方は、
各流派の公式ホームページの大会記録の都道府県大会の成績上位者の出身道場の門をたたくのもいいでしょう。
以下、参考サイト
剛柔会↓
https://www.karatedo.co.jp/gojukai/
糸東会↓
http://www.karatedo.co.jp/shitokai/
日本空手協会(松濤館流)↓
https://www.jka.or.jp/local/
和道会↓
http://www.karatedo.co.jp/wado/
忘れてはいけない空手道の精神
オリンピックの「競技」となった空手。
もっとも、空手は、正確には、「空手道」です。武道という、人の道を究める道なのです。
人間の道を学び、人生を誠実に全うするためのツールとして、空手道を学ぶ。
勤勉に、努力を怠らず、相手を尊重・尊敬するからこそ勝っても負けても礼を忘れない謙遜を身に着ける。
そんな人間こそ、空手の技を追究するにふさわしいという考えです。
その精神がなければ、自分の我を通すためや、相手に自分の優れた点を誇示するためなどという、武道の精神のかけらもない暴力が生まれてしまいます。
空手道は、相手を傷つけるためのものでも、倒すためのものでもありません。
空手道の基本がテンプレートとして組み込まれている「形」は、必ず防御から入ります。
「空手に先手なし」。
積極的に相手に害を加えるのではなく、相手の攻撃を受けてから、身を守るために相手と戦う、ということが前提になっているからです。
今後の空手
オリンピック競技になり、今後ますます発展していくであろう空手。
先にご紹介した組手では荒賀選手や、形では宇佐美里香氏が引退された後も、清水希容選手も金メダルの期待が高まります。
しかし、これを攻撃防御をポイントの道具とする競技にしてしまうと、あまりに寂しく、もったいないものがあります。
空手道の武術の土台となっている武道の精神を理解してこそ、本当の空手「道」を歩む者だと考えます。
ここまで読んでくださって、誠にありがとうございます!
そして、やりたくなったらぜひ、近くの道場に足を運んでみてください!
私がそうであったように、武道の精神で結ばれた、家族のような仲間がたくさんできるかもしれませんよ!